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2010年8月17日 (火)

くじけないで

今日は、92歳から詩を書き始め、98歳で処女詩集を発刊された柴田トヨさんの「くじけないで(株式会社 飛鳥新社 刊)」をご紹介します。

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 Photo

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明治生まれのトヨさんは、20歳の時に半年で離婚され、33歳で2度目の結婚をされ、一人息子にも恵まれ、贅沢ではなかったけれど、それなりの生活をおくられます。

平成4年、ご主人と死別。それ以来、趣味の日本舞踊を慰めとして来られたのですが、腰を傷め、ふさぎこんでしまわれます。

それを見るに見かねた息子さんが「詩でも書いてみたら」と勧め、「92歳から詩を書き始めた」というのですから驚きです。

だって、トヨさんの詩は、本当に素直で、純粋で、切なくて、かわいくて、それでいて力強くて‥‥‥。

ホーント、「私もまだまだいけるかな」と、変な勇気が湧いてくる詩なのです。元気づけられる詩なのです。

ウ~ン、ここまで言うと、まるで「恋人自慢」と間違えられそう。

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 返事
   風が 耳元で「もうそろそろ あの世に いきましょう」なんて
   猫撫で声で 誘うのよ
   だから 私 すぐに返事をしたの
   「あと少し こっちに居るわ やり残した事があるから」
   風は 困った顔をして すーっと帰って行った

 先生に
   私を おばあちゃんと 呼ばないで
   「今日は何曜日?」
   「9+9は幾つ?」
   そんな バカな質問も しないでほしい
   「柴田さん 西条八十の詩は 好きですか?
   小泉内閣をどう思います?」
   こんな質問なら うれしいわ

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90代でこんなに気丈でいれるトヨさん。こんなに頭の回転がいいトヨさん

トヨさんの紡ぎ出すその瑞々しい言葉の数々に感服します。

すでに私なんか、「ご門徒さんの名前は出てこない」とか「単語が出てこない」とかで、寂しい気持ちの今日この頃なのです。

でも、トヨさんだって、元気な時ばかりではありません。

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 自分に
   ぽたぽたと 蛇口から落ちる涙は 止まらない
   どんなに辛く 悲しいことがあっても
   いつまで くよくよしていては だめ
   思い切り 蛇口をひねって 一気に涙を 流してしまうの
   さあ 新しいカップで コーヒーのみましょう

 さびしくなったら
   さびしくなった時 戸の隙間から 入る陽射を
   手にすくって 何度も 顔にあててみるの
   そのぬくもりは 母のぬくもり
   おかさん がんばるからね
   呟きながら 私は、立ち上がる
   自分を奮い立たせるがの如く

 くじけないで
   ねえ 不幸だなんて 溜息つかないで
   陽射しやそよ風は えこひいきしない
   夢は 平等に見られるのよ
   私 辛いことが あったけれど 生きていてよかった
   あなたもくじけずに

 秘密
   私ね 死にたいって 思ったことが 何度もあったの
   でも 詩を作り始めて 多くの人に励まされ
   今はもう 泣き言は言わない
   九十八歳でも 恋はするのよ 夢だってみるの
   雲にだって 乗りたいわ

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なあんて、もっといろいろトヨさんの詩はあります。

どんなに気丈に振る舞ってみても、寄る年波に心細さや、寂しさがを感じないと言えば嘘になる。

それを奮い立たせ、一人住まいを続ける気力は、一体どこから湧いてくるのでしょうか。

訪問治療をしてくださる主治医の先生、毎日来てくれるヘルパーさん達。

また、いろいろな形で励ましてくださる友達や、仲間、もちろん家族、その他大勢の人たちの愛情に支えられているおかげなのでしょう。

目には見えなくとも、ご縁のある方々の温かさをしっかり感じておられるからなのでしょう。

ネッ! 人生、いつだって、これからですもの。

トヨさんの詩からは、「何を始めるにも、遅すぎることはない」と、心を慰められ、励まされるエールが届きます。

皆さん、機会があったら、柴田トヨさんの詩を、ぜひ読んでみてくださいね。

‥‥‥‥‥‥ 株式会社 トーハン(e-hon立ち読みページより ‥‥‥‥‥‥

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